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神戸地方裁判所竜野支部 昭和38年(ヨ)8号 決定

申請人 合名会社 ひまわり金融社

被申請人 立正信用組合

主文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は、申請人の負担とする。

理由

申請代理人は、

「本案判決が確定するまで、被申請人は、申請人が別紙目録〈省略〉記載の各不動産につき、昭和三六年一〇月一〇日金銭消費貸借にかかる設定契約に基く、神戸地方法務局安積出張所同年同月一三日受付第一、七二八号をもつて登記された、順位二番の抵当権を有することを認め、その権利を行使せしめなければならない。」

との仮処分命令を求める旨申し立て、

その理由として次のとおり主張した。

「申請人は、申請外秋田哲治郎に対し、昭和三六年一〇月一〇日、金五〇〇、〇〇〇円を、返済期日・同年一二月一〇日、利息金一〇〇円につき一日四銭九厘、返済を怠つたときの遅延損害金一〇〇円につき一日九銭八厘の約束で貸し付け、その債権を担保するため、同人所有にかかる別紙目録記載の宅地及び建物、並びに、兵庫県宍粟郡一宮町閏賀字西山五九七番の五二、山林二反五畝九歩に、神戸地方法務局安積出張所同年同月一三日受付第一七二八号をもつて、順位二番の抵当権の設定を受け、その登記を了した。ところで、これらの不動産には、申請外宍粟信用金庫のため順位一番の抵当権が設定されていたものであるが、右秋田の申出により、前記山林を処分したいため、各債務の一部弁済として、同金庫には金一〇〇、〇〇〇円、申請人には金三〇、〇〇〇円を支払う代りに、同金庫も申請人も、右山林についてだけ、各自の抵当権設定登記の抹消登記手続をすることとなつた。そして申請人は、昭和三七年八月三〇日、右金三〇、〇〇〇円の支払を得たので、約旨に従い、右山林についてのみ一部弁済を原因として前記順位二番の抵当権設定登記の抹消登記義務を履行することとし、同年九月上旬、司法書士丸居源治に各種必要書類を交付しその手続を依頼した。右依頼に際し、申請人は、同司法書士に交付した借用証書に表示されている各抵当不動産のうち、右山林の項だけに赤鉛筆で印を付し、抹消登記手続をなすべき物件を明示しておいたのである。ところが、後日判明したところよにれば、同司法書士は、右山林のみならず、別紙目録記載の宅地及び建物についても、錯誤により、申請人の抵当権設定登記の抹消登記手続をしたものであつて、現に右宅地及び建物については抵当権設定登記が残つていない。しかし、右登記の抹消は、錯誤により無効というべきであるから、申請人としては、どうしてもこの登記を回復してもらわねばならないが、前記秋田は、右回復登記手続をしようとしないし、また、別紙目録記載の各不動産には、被申請人のため順位三番の抵当権が設定されており、その登記もあるから、右回復登記には、不動産登記法第六五条により、被申請人の承諾も必要なのであるが、被申請人は、当初申請人に善処すべき旨を申し出ていながら、今では右承諾を拒んでいる始末であるそこで、申請人は、右秋田に対しては回復登記義務の履行、被申請人には右回復登記の承諾を求めて、この程当庁に訴を提起した。

しかるところ、被申請人は自己の抵当権の実行として、別紙目録記載の不動産の競売を当庁に申し立て、当庁は、これを容れ、昭和三八年二月一一日、同不動産につき競売手続開始決定をなし目下その競売手続が進行中で、競売期日も目前に迫つているのであるが、前記訴訟の進行中に右競売手続が完結するにおいては、抵当権設定者の秋田には他に見るべき財産もないので、該不動産の競売による売得金以外から申請人の抵当債権の回収を得ることが困難であるし、被申請人を被告として不当利得返還請求その他の訴訟を提起するにしても、容易ならぬ事態を伴うことが予想される。

こうしたことによる申請人の損害は、極めて甚大であり、かつ、事態は、急を要するものであるから、本案判決の確定に至るまで申請人が別紙目録記載の各不動産につき順位第二番の抵当権者たることの仮の地位を定める仮処分命令を求めるため、本申請に及んだ。

なお、本申請は、『被申請人において申請人が被申請人よりも先順位の抵当権者であることを認めよ。』という意思の陳述を命ずる仮処分命令を求めているものでなく、申請人が被申請人よりも先順位の抵当権者であることの確認を内容とする仮処分命令を求める趣旨のものである。そして、こうした仮処分命令がなされると、競売裁判所は、これに覊束され、申請人を競売法上の利害関係人として取り扱わねばならず、被申請人も、申請人が先順位の抵当権者であることを競売手続上争えぬことになると考える。」

そして、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

申請人が本申請においていかなる趣旨の仮処分命令を求めているのかは、些か不明瞭の嫌がないではないが、要するに、「申請人は、その抵当権につき登記がないから、競売法による不動産競売手続につき、同法第二七条第三項第三号の利害関係人ではあり得ないが、その抵当権の存在は、間違いないところであるから、このことを確認し、後順位抵当権者たる被申請人の申立にかかる不動産競売手続において、申請人を同条項第四号にいわゆる『不動産上ノ権利者』として、競売裁判所に取り扱つてもらうことを可能にするところの仮処分を求めたい。」というにあるものと察せられる。しかしながら、不動産競売手続上申請人を競売法第二七条第三項所定の利害関係人として取り扱うべきか否かを決するのは、競売裁判所の専権事項に属し、他の国家機関たる仮処分裁判所が、競売裁判所の判断を覊束すべき処分を命ずることは仮処分命令として法律上許された限界を明らかに逸脱するものである。また、一般に競売裁判所が競売法上の不動産競売手続を実施するに当つてなす事実の認定は、証明によるのであり、このことは、ことに同法第二七条第三項第四号の「不動産上ノ権利者」であるか否かの認定について、同規定の文言上も明らかにされているのであるが、仮処分命令は、疎明による事実認定に基いて発せられるものであるから、本件の仮処分申請は、疎明による裁判の証明による裁判所の認定に対する優位を求めるに帰し、この点においても容易に許しがたい要素を含んでいるものといわねばならない。疎明による事実認定に基いてなされながら、競売裁判所の手続に覊束力を及ぼし得るところの裁判は、現行法上、民事訴訟法第五五〇条第二号所定の執行停止を命ずるものに限られていると解すべきところ、申請人の求めている確認的仮処分命令がこれに該当しないことは明らかであるし、申請人の主張する事実関係からは、いかなる形にせよ、被申請人の申立にかかる不動産競売手続の停止を命ずる仮処分命令をなすべき余地はない。

もつとも、申請人は、仮の地位を定める仮処分として、申請人が被申請人よりも先順位の抵当権者であることが確認されるならば、その仮処分命令が競売裁判所の競売手続に覊束力を及ぼさないとしても、一応満足する趣旨であるとも解し得ないではない。しかしながら、民事訴訟法第七六〇条によれば、仮の地位を定める仮処分を命じ得る場合は、その処分が「殊ニ継続スル権利関係ニ付キ著シキ損害ヲ避ケ若クハ急迫ナル強暴ヲ防グ為メ又ハ其他ノ理由ニ因リ之ヲ必要トスルトキニ限ル」のであつて、単なる仮定的確認の域を出ることのない仮処分命令は、同条の要件を具備せず、これを求める利益がないものといわなければならない。

いずれにせよ、本件仮処分申請は、許されぬものである。よつてこれを却下することとし、なお、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 戸根住夫)

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